胃なしケイコの【日日是散歩】(にちにちこれさんぽ)

36歳で胃がん(印環細胞癌)に 胃と胆のう全摘から10年目の記録

ついにこの日が

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病院の白いカーテンを眺めながら、

「あぁ、やっぱりあの時に会ってたらなぁ・・・後悔しなかったのに。もう、やっぱりこのまま会えなかったらどうしよう」

って何度も思った彼との話。

18年ぶりの再会

過去日記 2012年9月7日

19歳の時にケンカ別れした彼といつか会ってちゃんと話したい、謝りたいと思い続けて18年。

ついにこの日が来た。

 

今思えば、虫の知らせだったのかも・・・

別れてから彼は大学も辞めてしまって、それ以来一度も会ってないし、連絡も取っていなかった。

去年の夏に思い切ってサクッと軽いメールをしてみた。

返事が来なかったらへこむわ・・・と思いながら。

 

思いがけず返信はすぐにきて、しかもお互いに会って話がしたいねということに。

彼は前の年に結婚していた。

 

私より1つ年上だったからまあ普通はしているよねと思ったけど、逆に最近まではしていなかったのか・・・と思うと複雑な気分でもあり。

 

 


会う日程は2ヶ月後の9月を予定していた。

私の残業がない金曜日を狙っていたらそんな先になってしまった。

 

ところが、直前になって彼の急な出張が入りリスケすることに。

 

じゃあ、また時間ができたときに連絡してねといったものの、出張っていうのは実は口実で本当はやっぱり会うのが嫌になったんじゃないかな?と思ったりすると自分からは連絡ができなかった。

 

そうこうしているうちに、私はその2ヶ月後に胃癌が発覚→入院・手術→自宅療養・・・となってしまったので、それどころではなくなってしまった。

 

でも、病院の白いカーテンを眺めながら、

「あぁ、やっぱりあの時に会ってたらなぁ・・・後悔しなかったのに。もう、やっぱりこのまま会えなかったらどうしよう」

って何度も思った。

 

8月になって大学の先輩と会った時に彼の話が出た。

そういえば、あれから1年経っちゃったな。

 

彼はなんで何にも連絡してくれないんだろう・・・

 

直接は病気のことを言ってないけど、Facebookを見ればわかるよね〜

 

やっぱりどうしても会っておきたい!って思ったら、気持ちを止めることはできず

また勇気を出してメールしてみた

 

そして、今回も返事はあっさりときた。

 

しばらくFacebookを見てなかったけど、私の近況をチェックして唖然としてしまって、逆に声がかけられなかった・・・と。

 

なんでよ。

待ってたのに・・・。

 

でも、彼は励ましの言葉をたくさん書いてくれて

「お話ししたいことがたくさんあります」と。

 

今回は間を空けずにすぐに会った方がいいと思って、日にちを決めた。

時間と場所は彼にお任せ。

昔のように渋谷駅まで迎えに来てくれることになった。

 

やっと、やっと、本当に会えることになった。

 

もっと若い時に会えてたらなぁ〜私もう37歳になっちゃったし、立派なアラフォー女子だよ。

彼も38歳になるのか。

 

仕事バリバリしていて立派になっているっていう噂は周りから聞いていたけど

どんな風に変わってるんだろう?

昔と同じように話せるかな?

 

会ったら、まずなんて言おうか?

食事はきっと喉を通らないだろうな・・・

洋服はあれでよかったかな?

メイクは薄めの方がいいかな?

前の日はいろいろな思いが込み上げてきて、なかなか寝付けなかった。

 

過去日記 2012年9月9日

8.30

 

こんなに緊張したことってあったっけ?っていうくらい緊張して

電車を降りてから待ち合わせをしている改札までどうやって息をしたらいいかもわからなくなってしまうくらいだった。

 

改札を出ると彼は時計をちらっと見ながら待っていた。

 

私が手を振りながら近づくと

「久しぶり!18年ぶりだよ!!」

って言いながらハグしてきた。

生きていてよかった・・・そんなハグだった。

 

会ったらまず何を話そうかとか考えていたけど、彼の笑顔とその力強いハグで今までのことはすべて許してもらえた。そんな気がした。

 

「歩いて大丈夫なのか?」

って私の身体を気遣ってくれながら食事をする予定のホテルへ。

 

「何が食べられるのかわからなかったし、ホテルだったらゆっくり食事できるかと思って」

 

わたしはただでさえあんまり量が食べられない上に、緊張して食事も喉を通らない気がしたからサンドウィッチが食べられるところを選んだ。

 

「まさかこんな日が来るとはね」

 

「なんかさ、こうやって会うことになって昔のこととか思い出したりするとさ。

あの頃の気持ちとか匂いとかまでよみがえってくるんだよね。俺が住んでいたアパートのあの匂いとか。」

 

「わかる!わたしも今でもあのアパートの匂い覚えてる。

前に、電車に乗って寝ていたらふわっとマルボロの赤と植物物語のシャンプーが混ざった匂いがしてきてね。

思わず目ぱちっと開けて、電車の中探したけど違う人だったってことあったよ」

 

彼が笑っている。

 

「誰かに会うとさ、当時からの友達ね。必ずあなたの名前が出てくるわけよ。

俺と別れた後にどれくらいしてから誰と付き合うことになったとか・・・

大阪に行ってもうすぐ結婚するらしいとか、耳に入ってくるんだよね」

 

「わたしはね、今思えばなんであんなこと言っちゃったんだろうとか、なんであんなことしちゃったんだろうとか思うけど、若気の至りというか。

好きなのに相手の気持ちを試すようなことをしたり、なんかめちゃくちゃだったんだよね」

 

彼は

「わかる。わかるよ。若かったんだよお互いに。今だったら同じことが起こったとしても結果は違かったと思うけどね」

 

「わたし、あの後半年間毎日、本当に毎日泣いてたんだよ。朝起きると涙が勝手にだーって出てきて。

ご飯も食べられなくなって激痩せしてね。父にお前病気か?って心配されるほど。

で、こんなんじゃダメだって思って、オーストラリアに1ヶ月くらい初一人旅初海外旅行に行ってやっと振り切れた」

 

「俺は泣きこそしなかったけどね。2年くらい引きずったね。あなたと別れたことが俺の人生に与えた影響は大きかったよ。

2年くらいはステディな人は作らなかった。

その後に出会った人と10年間付き合って、別れた後今の妻と結婚したんだ」

 

なんか意外だった。

苦しんでいたのは自分だけだと思っていたし、彼がそんなに長いこと引きずっていたとは想像もしてなかった。

 

彼が別れた後なんとなくはっちゃけていたのは知っていたから、もっといろんな人と付き合ったりしていたのかと思った。

 

「俺の後に付き合った人と結婚するのかと思っていた。あの人はいつも俺たちのことを気にかけてくれていたし、いい人だったし、あの人とだったら結婚して幸せになって欲しいなって思ったりしてた。」

 

わたしの顔をじっと見ながら

「まさか、独身でいたとはね・・・」

 

「大阪に行って、もう結婚するって聞いてたから」

 

「うん。籍こそ入れてなかったけど、そのつもりだったし親にも挨拶に来たし、会社にもそうやって言ってたし、結婚祝いまでもらっちゃったりしてたからね」

 

「でも、今はあの時結婚しなくてよかったと思っているよ」

 

「そうなんだ」

 

「その彼は病気のこと知ってるの?」

 

「うん。すごく心配してわたしが携帯に出られないでいたら、実家の電話にまで電話かけてきて倒れているんじゃないかって心配してた。」

 

「どんな気持ちだったか。俺にはわかるね」

付き合った人じゃないとわからない。そんな感じのことを言っていた。

 

わたしの病気が分かった時、もしかしたらもう会えないかもしれないと思って

「なんであの時会えなかったんだろう。もっと早く連絡しておけばよかった。」

って思ったっていう話をしたら

 

「それはこっちのセリフだよね。どんな気持ちがしたか。」

って言われた。

 

彼がわたしと別れた後にどんな生活をしてきたのかとか、今の仕事の話、お互いの家族の話なんかをポロポロと話した。

 

わたしの話をすると

「キャリアウーマンだね。でも、昔から野心があったよ」

 

「そう?野心なんてあったかな〜?」

 

「やっぱりさ、家庭に入るって感じのタイプではないよね。これからも自由でいればいいじゃん」

 

そっかなぁ・・・

 

「俺、太った?」

「いや、あんまり変わんないんじゃない?」

 

昔は黒々としていた髪に白いものが混じってきたけど、仕事ができそうな渋い男性になっていた。

 

「ケイコさんは年相応の大人の女性になったね。結婚していないからか歳よりは若く見えるけど。あの頃はまだ少女のようだったからなぁ。」

って言われてなんか嬉しかった。

 

そう、あの頃はまだ眉も整えてなかったし、メイクもほとんどしていなかったし、

格好もジーンズにスニーカーとかそんなんだった。

 

彼はわたしの何がよくて好きになってくれたんだっけ?

聞いとけばよかった。

 

「どこか行きたいとこある?」

 

「え?今から仕事でしょ?」

 

「うん。でも、今日は行かなくてもいいよ。」

 

そんな風に言ってくれて嬉しかったけど、急に言われて思いつかなかった。

 

「渋谷で?」

「どこでも」

 

ますます困る。

 

「でも、外も暑そうだしね。人混みの多いところはちょっとって考えるとなかなか難しいね」なんて言ってたら

 

「じゃあ、今日は大事をとって帰るか。無理しないで」

と言われてしまった。

・・・ちょっとホッとしたような寂しいような。

 

「これからは気軽に食事にでも行こう。お腹が空いたら昼でも夜でも呼んで!お互いの連絡先も分かっているし、いつでも会おうと思えば会えるからね」

 

でも、今回会うことにした時も最初で最後のつもりだった。

このまま中途半端に会わない方が綺麗な思い出のままで終わるような気がするから。

 

駅の改札で別れる時、ハグしようか悩んだけどやめておいた。

振り返った時にまだそこにいて手を振ってくれた姿、最後が笑顔でよかった。

 

なんだか、小田和正

『今日もどこかで』のフレーズが頭に浮かんで離れない。

 

♪巡り会って そして 愛し合って

許し合って 僕らは つながってゆく♪

 

後で彼からメールがきた

『なんだかノスタルジーを感じてたよ。不思議な時間でした。次回も是非ね』

 


 

もし、明日が突然やって来なくなるかもって想像して会っておきたい人はいますか?

話しておきたい人はいますか?

伝えておきたいことはありますか?

 

目を閉じて思い浮かんだ人がいたら

ちょっとだけ勇気を出して

伝えてみたらいいと思う

 

伝えられる時に伝えておいた方がいい 

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