胃なしケイコの【日日是散歩】(にちにちこれさんぽ)

36歳で胃がん(印環細胞癌)に 胃と胆のう全摘から10年目の記録

バリ島での出会い②

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過去日記 2011年6月某日 胃がん発覚5ヶ月前

「バリにはよく来るの?」

「どうしてこのホテルに泊まろうと思ったの?」

ビンタンビールを飲みながら、日本から持ってきたおかきをつまみにそんな話から始まったと思う。

さっきホテルのレストランで知り合ったばかりのMちゃんとわたしの広すぎるデラックスヴィラで始まった女子会。

Mちゃんの口からはわたしが想像もしていなかった言葉が出てきた。

「わたし、実は病気をしていてやっと元気になってこうやって海外旅行に来れるようになったの。」

Mちゃんはお母さんから提供してもらって腎移植の手術をした話をした。

わたしは腎臓病について詳しくは知らなかったけど、Mちゃんは体中いろんなところに注射の針を刺していて、もうこれ以上刺す場所が見つからないくらいだったと言っていたのが衝撃的だった。

 

そして、病気で辛くてしんどかった時に自分がどうやってそれを乗り越えようとしたかを静かに話してくれた。

友達に相談したとしても、わかってもらえないし相手も困るだろうから言えなかった。

気持ちが沈んだりするときは、本を読んでそこから何か救われる言葉がないか探したりしていた。

わたしはただじっと聞いていた。わたしには経験したことのない悩みや苦しみだった。

わたしだったらそんなときどうするだろう?

 

毎日頭の中は仕事の数字でいっぱいで、ストレスをうまく発散できず疲れ切っていたわたしは、他のことを考える隙もなかった。

私だったらどうするだろう。

映画を見た後みたいに、余韻の中で自分を振り返った。

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次の日も朝から一緒にヨガをしたり、ご飯を食べたりして、先に帰る彼女をわたしはホテルのエントランスで手を振って見送った。

わたしはその後一人旅で来ていた日本人の女の子と出会い、今度はわたしから声をかけて一緒に食事をした。

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「今度一人で食事をしている人を見かけたらあなたが声をかけてあげてね」と言っていたオーストラリア人の子からMちゃんへ渡されたバトンがリレーみたいになっていった。

わたしは彼女とも一緒にオプショナルツアーに参加したり、食事をしたり、夜はプールサイドに寝転がって蛍が飛び交う中、満天の星空を見ながら恋話をして盛り上がったりした。

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ひとり旅だったけど、結局一人でいることはほとんどなかった。


それから5ヶ月後

わたしは吐血して倒れ、胃がんが発覚して手術をすることになった。

それを知ったMちゃんからメッセージが届いた。


 

ケイコちゃん、すごく驚きました。

ケイコちゃんはしっかりしてるし、信頼できるお友達もたくさんいて、ご家族も側にいるみたいだから、私が書き込みをする必要もないのかとも思ったし、安易に頑張って下さいというのも何か違うしと考えてたんですが。

 

それでもあえて伝えたいのは、皆さんがいうように、どんなにつらい状況にあったとしても、
一人じゃないんだと思います。

私は闘病中あまり、ツライとか誰にも言えなかったし、親にいっても病気のことは理解できないし、心配させるだけだったからあまり言わなかったけど、一度だけ入院してるときに、お見舞いに来てくれた友達の前で思いがけず、泣いてしまいました。


そしたら友達も泣いてたけど、でもスッキリしたんだ。

親の有難さも改めて身にしみるしね。

入院や闘病生活の中でも色んな人に出会ったり、いろんなことを考えたりするだろうし、
私も本だったり、音楽とかからも、間接的にでも人から励まされたりするなあと、実際痛感したよ。

 

今は心の整理とか大変だと思うけど、こうした経験は人間の幅が広がると思うし、私はツライ事は今度ツライ事があったときに乗り越えるために必要なワクチンみたいなもんだと思ってます。

パワーアップして、まだまだ色んなところに旅行に行かないとだしね!少しでも早く元気になられることを祈ってます。


 

メールありがとうね。すごく嬉しかった。

わたし、さっきもお風呂に入りながら考えてたんだけど、バリであのタイミングでMちゃんに会ったのもやっぱり運命だなって。

あの時にMちゃんから聞いた話は、今すごく私の中で支えになってるから。
神様が事前に準備してくれたみたいだね。

私もMちゃんみたいにまたひとり旅で海外行けるようにがんばるよ!


 

ケイコちゃん

そう言ってもらえると何よりでよかったよ。
こないだ読んだ本に

『この世に起こることは必然で必要。そしてベストのタイミングで起こる』(by松下幸之助)って書いてあったよ。

 

私は入院中にあまりにも暇だったので、日記書いてたんだけど、今でも日常で凹んだ時とか、たまに読み返すんだぁ。

 

時間が過ぎるとやっぱつらかったことも、初心とか細かいことまでは忘れちゃうんだよね。

自分を支えてくれた人達への感謝の気持ちとか。

あの頃の自分は不安な中、こんなこと考えてたんだとか、それを乗り越えたこととか思い出したりして・・。

わたしは闘病中に次から次へと予期しないこと(手術の延期とか、別の手術を急遽受けることなったりとか)

起きるたびに、辛ければ辛いほど、神様に『さあ、キミならどうする?』って試されてるような気がしたなあ。

そうそう、ちょうど、バグスジャティのレストランの女の子からメールが来て、バリは今雨季らしいよ。

あそこの人たちってほんとにみんな親切で屈託のない笑顔してたね。あの、ヨガの先生とかも。懐かしいね・・・。

入院前に無理しない程度においしいモノとかお出かけとか楽しんでね! 


 

このメッセージをもらった時は入院前でバタバタしていて、自分の気持ちの整理なんてしている暇もなかった。

もちろん嬉しかったしちゃんと読んでありがたいと思っていた。

いざ、自分が手術をして退院をして、さあ、これからどうやってあなたは生きていく?ってなった時に何かマニュアルはないのか?同じ苦しみをわかってくれる人はいないのか?って探している自分がいた。

 

そして、退院後1ヶ月くらいの一番精神的に辛かった時にバリのヴィラでMちゃんが語ってくれたことがふと思い浮かんだ。

もらったメッセージを改めて読み返してみた。

入院して手術して、これからどうなるかわからない自分の体や生活を憂いるまではわからなかった彼女の気持ちや想いがキューっときた。

10年経つ今このメッセージを読み返すと、言葉がじわ〜っと沁みる。

自分が経験して初めて気がつくことだった。

 

辛い時には本を読んだり、日記を書いたりしたらいい。

彼女が元気になって一人で海外旅行に来ていた姿は希望だった。


ブログを始めたわけ

入院前にスキルスがんについて調べた時、いろんな人のブログを探しても元気になっている人が書いているブログを探すことができなかった。

たまに「あ、この人同じ歳くらいの人だ!」って思って読んでいくと、最後はご家族の方が代筆されて終わっていた。

 

それでもうあまりブログをみたり、がんのことも調べないようにしていたけど、これからどうやって戦っていくかっていうのに、相手(がんや胃なし)のことも自分の状態もわからずには戦えないということを受け入れていくことになる。

 

胃がないとどうなるのか?胆のうがないとどうなるのか?

何が問題なのか?

これからどういうことが起こっていくのか?

社会復帰するのにはどれくらいかかるのか?

体重増やすにはどうしたらいいのか?

 

お医者さんのブログ

それから本を読んだり、ネットで調べたりしていくうちに現役のお医者さんで、わたしと同じ印環細胞癌で胃を全摘した方のブログを見つけた。

『胃切除後の日常生活』

わたしより2年前に手術をされていて、食事のことや胃切除後のトラブルなど医師の立場から客観的かつ具体的に胃なしの日常を書かれていた。

海外旅行にも行かれるようになっていて、わたしにとってそのブログはやっと見つけた光のような存在だった。

 

5年間続いたそのブログをわたしも2年遅れで追いかけた。

まずは近場の台湾から行けるようになるかもしれないんだなとか夢がもてたし、どうやって調理したら食べやすいのかとか、あぁ、書いてあった通り自分もこういう症状が出るんだなとか、本当に参考になった。

 

一度もコメントすることとか、メッセージを送ったことはないけれど、いつもありがたく拝見していた。

 

自分もこうやって誰かのためになるようになブログを書けるようになったらいいなと思っていたけど、実際に苦しんでいる最中や不安な気持ちが強い中では、客観的な文章が書けない気がして手を出せないでいた。

 

ようやく10年が経とうとしている今、書いていく覚悟ができた。

記録し、その時々の自分の想いは綴ってある。

10年前に書いた『やりたいことリスト』はもうほぼクリアしていて、

あと、大きなものはこのブログを書くことくらい。

必要な人のところへそれが届けばいいなと。

闘病中の方やそのご家族だけでなく、誰でもそれぞれの立場になって感じることができるブログにしたいなと思っています。

 

さて、次は「退院2ヶ月目」に戻っていきます。

「【インドの屋台風トースト】を食べて倒れる」ところから。

 

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